ガスクロマトグラフシステムは以下のような構成で成り立っています。
注入口
ガスクロマトグラフィーにおいては、サンプルを気化して分析します。注入口では、サンプルを気化させるため、最適な温度設定が必要となります。
設定温度が低いと、気化するのに時間が掛かり、結果、ダラダラとサンプルがカラムへ導かれ、検出されたピークがシャープでなくなってしまいます。また逆に設定温度が高すぎるとサンプルによっては、変質(熱分解、重合)を起こし、分析自体の目的を失ってしまいます。
サンプルにより最適な注入口の選択が必要です。代表的な注入口を以下に示します。
スプリット/スプリットレス注入口
スプリット注入
注入後、加熱気化されたサンプルの一部をカラムへ導入し、大部分をベントする注入法です。これによりカラムへの負荷を少なくし、またカラム先端部でのサンプルの幅を狭くできるため、よりシャープなピークを得る事ができます。
カラムへの導入量を1としたときのベント量をスプリット比と呼んでいます。カラムへのサンプル導入量が少ないため高濃度サンプルの分析に向いています。
スプリットレス注入
注入後、加熱気化されたサンプルの大部分をカラムへ導入する注入法です。サンプルがカラムに導入された後、注入口に残ったサンプルをパージすることにより溶媒のテーリングを抑えることが出来ます。
また、大部分のサンプルがカラムへ導入されるため、微量分析に向いています。サンプルのカラムへの導入時間が長いために、カラム先端部でのサンプルのバンド幅が広くなります。これを防ぐために、コールドトラップ、溶媒効果というテクニックを用いて、バンド幅を狭くします。コールドトラップとは、オーブン初期温度をサンプル(溶質)の沸点よりも低温に保つ事によりサンプルをカラム先端部で凝縮させる、また溶媒効果とは、オーブン初期温度を溶媒の沸点よりも低温に保ち、溶媒と共にサンプル(溶質)をカラム先端部で凝縮させるテクニックです。
クールオンカラム注入口
この注入口では、液体サンプル全量を直接カラムへ注入します。注入口は室温のままでサンプルがただちに気化させないため、サンプル組成の不均一化や変質を抑えることができます。全量注入のため正確な分析を行うことができます。サンプルの沸点範囲が広い場合にも向いています。
パージパックド注入口
この注入口は、高い分解能を必要としないパックドカラムに使用します。また、キャピラリカラムでの分析も可能です。注入口で気化されたサンプルは全量カラムへ導入されます。
カラムオーブン
恒温分析と昇温分析
一般に試料に含まれている沸点の差がない場合には恒温分析が、沸点の差が50-100℃以上の場合は昇温分析が行われています。
検出器
化学量を電気量に変換するのが検出器の役割です。検出したい化合物により最適な検出器を選択することで、選択性の良い高感度な測定を行えます。以下に、ガスクロマトグラフィーで使用される一般的な検出器を紹介します。
FID(Flame Ionization Detector)-水素炎イオン化検出器
FIDは最もポピュラーな検出器で、ほとんどの有機化合物(炭化水素化合物)に応答します。
原理
ジェットの先端の水素炎にカラムからの各成分が通り燃焼されます。有機化合物が燃焼すると、水素炎の中では有機化合物の一部(数ppm)が図2のようなイオンになります。ジェットの上部には200V程度の直流電圧のかかった電極(コレクタ)があり、ここにそれぞれのイオンが捕集され、これによって発生した電流をエレクロメーターで検知します。
TCD(Thermal Conductivity Detector)-熱伝導度検出器
キャリアガス以外の全ての化合物を検出することができる汎用検出器です。キャリアガスには、一般的にヘリウム(He)が用いられ、水素などのガス分析には窒素やアルゴンが用いられます。TCDでは、サンプルが破壊されないため、FIDなどの検出器と直列につなぐことが可能です。
原理
サンプル成分を含まないキャリアガスとサンプルを含むキャリアガスの熱伝導度を比較することにより検出します。検出器内部にはフィラメントがあり、これに直流の電圧をかけて熱します。熱せられたフィラメントは、カラムを通過してきたキャリアガスによってその熱が奪われ、やや温度が下がった状態になっています。この現象をわかりやすくするために、電気ヒーターを思い浮かべてください。赤熱したヒーターに息を吹きかけると、その瞬間赤い色から黒ずんだ赤色に変わります。息(空気の流れ)によってヒーターの熱が奪われ温度が下がったためです。これと同じようなことがTCDのフィラメントでもおこっているわけです。
実はキャリアガスによく用いられるヘリウムは、熱伝導度のよい、つまり熱を奪いやすい性質を持ったガスです。これらのガス以外の化合物は熱伝導度がほぼ一桁も小さい物質です(つまり、熱をうばいにくい)から、これらのガスとキャリアガスの混合ガスがフィラメントから奪う熱量は小さくなり、フィラメントの温度が上がります。これを観測することでキャリアガス以外の化合物全て(厳密には、キャリアガスと熱伝導度が異なる化合物全て)を検出することができます。
FTD (Flame Thermionic Detector) -アルカリ熱イオン化検出器
FTD(別名 NPD)は有機窒素化合物(1つの分子に炭素Cと窒素Nがある化合物、例えばHCN)やリン化合物(例えば PH3)に高い感度を示します。リン化合物に対しては後述のFPDの方が選択性が高いため、NPDは主に窒素化合物の検出に使用されます。
原理
構造的にはFIDとよく似ています。ジェットの上部には加熱されたルビジウム塩(ビーズ)があります。FTDではFIDと比べ水素/空気比小さいためフレームは発生せずにビーズのまわりにぼやっとしたプラズマ状の雰囲気を作ります(と言われています)。
この中に炭素と結合した窒素、即ち-CN化合物が入ると図のようなイオン化が起こり、イオン電流が得られ、エレクトロメーターで検出されます。FTDではフレームが発生しないため、有機化合物のイオン化は、ほとんど行われません。
ECD(Electron Capture Detector)-電子捕獲検出器
ECDは、PCBや農薬などのハロゲン化合物(塩素化合物など)に対して非常に高い感度を示し、環境汚染物質の分析に広く使用されています。
原理
ECDセルの内部にはニッケル63(63Ni)というβ線を出す放射性同位元素(線源ともいいます)が封入されています。キャリアガス(もしくは検出器ガス)には一般的に高純度窒素ガスが用いられます。窒素キャリアの場合、窒素ガスがβ線によってイオン化し電子を放出します。セルには電圧がかかっていますので、両極にイオン電流が流れます。これがいわゆる基準電流といわれるもので、ベースラインとなります。ここに、カラムから親電子性化合物(電子を捕獲しやすい化合物、例えばPCB)が入ってきたとすると以下の反応で電子がPCBにくっつきイオンができます。
電子が捕獲された(セル内の電子が少なくなった)後、基準電流に一致させるためセル電極にパルス電圧が印可されます。自由電子が少ない(サンプルのイオン化が多い)ほど、基準電流に一致させるためのパルスレートが上昇し、このパルスレートを検出します。
FPD(Flame Photometric Detector)-炎光光度検出器
FPDは、硫黄およびリンを含む化合物に対して高い感度を示す検出器で、環境分析と生物科学で主に使用されています。ジェットの上部で水素炎が燃えている点はFIDとよく似ていますが、この炎は還元炎といって、水素量の多い炎で、FIDと比べてその温度が低くなっています。
原理
水素炎の中で発光する元素特有の光を干渉フィルターに透過させ検出します。水素炎の中で、発光現象が起こりそれぞれ 394nm、526nmという波長の光が得られます。水素炎中では、これら以外の波長をもつ光もでますが、干渉フィルターで必要な波長以外の光をカットして、光電子増倍管(PMT)で受光により発生した電子を増幅し、検出します。FPDは選択性の高い検出器といわれますが、それは、その元素に基づく光を検出しているからです。
データ処理装置
検出器から出力された信号は、コンピュータ、インテグレータ等により記録、解析を行います。