質量分析入門

イオン化部

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質量分析計においてより良い結果を求めるための第一歩は、いかに効率よく試料をイオン化し次のステップへ送り出せるかにあります。現在市販されている主なイオン化法には、EI、CI、ESI、APCI、MALDIなどがあります。それぞれの特性について述べますので、選択の目安にして下さい。

イオン化選択には

イオン化法を選択するためには、まず試料の特性について理解するところから始まります。

  1. 試料の量:どの程度のオーダーなのか
  2. 試料の予想される分子量:分子量800-1000、3000-4000程度が一つの目安になります。
  3. 試料の極性:極性の有無、揮発性は重要なポイントです。

EI(電子イオン化法:Electron Ionization)

フィラメントより熱電子を発生させ電子を加速し、その電子ビームを分子に衝突させることにより、分子から電子を放出させてイオンを生成させる方法です。

熱電子加速電圧を変化させることによって様々なスペクトルパターンを得ることができますが、この電圧は1982年にEPAプロトコルに70eVと載って以来、70eVによるデータにて取られたデータによるスペクトルパターンを収録した「ライブラリ」が作成されるようになり、「70eV」が一般的になりました。いわゆる「ライブラリ」が存在するのは、このイオン化法を用いた場合がほとんどです。

一般的には分子量が800-1000程度以下の低分子量試料で、揮発性の高い、もしくは常温で気体の試料に対して用いられます。

GC(ガスクロマトグラフ)と組み合わせて用いられる場合がほとんどです。

CI(化学イオン化法:Chemical Ionization)

イオン化部内で試薬ガスをイオン化し、生成した反応イオンが試料分子とイオン分子反応を起こすことにより試料分子をイオン化する方法です。

代表的な試薬ガスであるメタンを用いた場合の反応を示します。

このような形で試料をイオン化します。試薬ガスにはイソブタン、アンモニアなども用いられます。また、ジクロロメタンなどを用いれば負イオンを生成させることも可能です。

化学反応を用いているので、ソフトなイオン化法と言われています。そのため、フラグメンテーションは起こりにくいですが、ベースイオンの強度が高くなる場合があるので、EIにて分子イオンが観測されなかった場合はCIを試してみる価値があります。

一般的には農薬分析の際などに用いられることが多いです。

ESI(エレクトロスプレーイオン化法:Electrospray Ionization)

このイオン化法は、高電場により電荷に偏りのある液体(円錐状、テイラーコーン)を発生させ、スプレーにより、より細かい液滴にし、乾燥ガスを用いて液滴中の溶媒を蒸発させ電荷密度を増加させます。液滴中の電荷密度がレイリーリミットに到達すると液滴は同種電荷の反発によりクーロン崩壊を起こしさらに小さな液滴に壊れ、これが繰り返されることでイオンが液滴から脱離することでイオン化を行います。

ESIでは分子量が10万程度以下の分子量の試料に適用させることができ、熱不安定な物質(生体試料)や難揮発性の試料にも有効です。

ただ、試料を溶液上にする必要があり、試料溶媒によってはこのイオン化法にはそぐわない場合があります。このイオン化法はよくLC(液体クロマトグラフ)と組み合わせて用いられますが、LCでよく使用されるリン酸バッファーのような不揮発性の溶媒は、原理的に考えても使用を避ける方が賢明です。

また、大きな特長として多価イオンの生成が起こることが挙げられます。マススペクトルは横軸は質量ではなく質量電荷比(m/z)ですので、多価イオンにより電荷zが増えると、より高分子量試料の測定が可能となります。分子量10万程度に適用化、とは多価イオン生成によるところのものです。

APCI(大気圧化学イオン化法:Atmospheric Pressure Chemical Ionization)

このイオン化法は、主にLCと組み合わせて用いられます。

LCよりネブライザーへ導入された試料溶液はヒーターにより加熱され、窒素ガスにより噴霧されます。噴霧した先に設置されたニードル電極に電圧を印可しコロナ放電を起こし、周りに存在する窒素、水、溶媒をイオン化します。これらの反応イオンが試料分子と反応して試料がイオン化されます。

大気圧下で行う化学イオン化法のため、APCIと呼ばれます。

ESIとは異なり多価イオンは生成せず、農薬など低分子量(2000-3000程度まで)の試料が対象になります。

MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法:Matrix-Assisited Laser Desorption Ionization)

試料を安息香酸や金属マトリックス等に混ぜ、真空下でレーザー照射します。レーザーによりマトリックスをイオン化した後、試料をイオン化させます。

加熱を伴わないため熱不安定な試料に適していますが、レーザー照射による分解が起こるため構造不安定な試料には向きません。

分子量100万程度まで測定可能です。MALDIと相性の良いTOFと組み合わせると、最も高質量領域の測定が可能な質量分析計となります。

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