現在市販されている質量分析計の質量分離部の主なものをご紹介します。最近では複数の分離部を組み合わせて使用するMS/MSも幅広く利用されています。
四重極型 Quadrupole
z軸に対称に配置された4本の電極に、直流(U)と高周波交流ω(Vcosωt)を重ね合わせた電圧をかける。下図で、対向する一組には +(U+Vcosωt)、もう一組には -(U+Vcosωt) をかけ、z軸に沿ってイオンを飛行させると、イオンはxy平面に振動しながら進む。ここで U/V=一定 で質量スキャンをすると、下のグラフの安定振動領域にあるイオンだけが検出器に到達でき、不安定領域にあるイオンは電極外へ出てしまう。このようにして質量分離が行われます。
長所は、小型であること。操作が簡単なこと
短所は、分解能と感度が他のMSと比較し、低いケースが多いこと
測定可能な質量領域はm/z4000程度です。
イオントラップ型 Ion Trap
外側を円筒状にそぎ落としたドーナツ型のリング電極の穴の上下に半球状のエンドキャップ電極を押し込めた内部にイオンを導き、電圧変化に従ってこぼれ出すイオンを検出します。導入されたイオン全てをトラップしておき、高周波電圧の振幅を大きくしていくと、イオンはm/zの小さいものから順にトラップ室から排出され、検出器に到達します。
長所は、小型であること。ヘリウムガスを導入し衝突解離(CID)を起こすことが可能であるため、MS/MSが可能であること。トラップ室に閉じこめた全量を検出できるので、スキャン感度が高いこと
短所は、トラップ室に閉じこめられる量に制限があるため、ダイナミックレンジが狭くなり、定量には向かないこと
測定可能な質量領域はm/z4000程度です。
飛行時間型 Time-Of-Flight
イオン化部で一定の加速電圧により加速されたイオンはm/zに応じた飛行時間で飛行することを利用した方法です。
原理的には測定できる質量に制限が無く、高質量の試料の分析が可能です。
その他の質量分離部
上記の他に、極めて高い分解能・質量精度が得られるFT-ICRや磁場型などがあります。
また、現在ではこれらを有機的に組み合わせたMS/MSシステムが数多く使用されています。質量分離部